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エンキ・ビラル最新作『アニマルズ』を読む

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## 原正人の「なぜ私はヨーロッパマンガを愛するようになったか」
「こんな時代だからアクセスできるけど、気軽に手を出すにはちょっとよくわからん」というマンガを深追いする連載企画。フランスマンガ研究家の原正人氏が、いまだ知られざるヨーロッパマンガの魅力を第1・第3金曜日にどっぷりと紹介していく。
第1回 「荒木飛呂彦と宮崎駿の共通点は?」 (4月3日)
第2回 「エンキ・ビラル最新作『アニマルズ』を読む」 (4月3日)

連載第1回では「荒木飛呂彦と宮崎駿の共通点は?」と謳い、現在も日本に影響を与えつづけているヨーロッパマンガの近況をざっとさらってきた。

第2回では、いよいよヨーロッパ漫画のレビューを開始。日本でも大人気のBD(フランスマンガ)作家、エンキ・ビラルの最新作「アニマルズ」を紹介しよう。

なお、本文の見所を原氏の私家訳版として引用・紹介してあるので、ここから物語の世界観に入っていってほしい。

突発的な異常気象が地球を襲い、世界のありようを全くと言っていいほど変えてしまった。傍若無人な自然を前に、人々はなすすべもなく立ちすくむばかり。やがて彼らは、自らの生存を賭け、飲用水、ひいては人間らしい生を探す旅に出る。あらゆる交通手段が遮断された世界で、彼らに残されたチャンスは大海原だけだった。人々は向かう。地球上にいくつか点在するとされるエルドラドと呼ばれる安住の地を求めて――

長くなったが、これが今回紹介するエンキ・ビラルの新作『アニマルズ』(Enki Bilal, Animal’z, Casterman, 2009)の冒頭で説明される世界観である。熱心な読者なら「彼らしいな……」と苦笑するところだ。

2007年に刊行された「モンスター4部作*1 の最終巻『4人?』以降、エンキ・ビラルの動静を気にしていたファンにとっては待ちに待った待望の新刊だ。

便利な時代になったもので、僕は日本にいながらこの本の新刊情報を事前に入手し、発売直後に航空便で送ってもらい、1週間と経たずにその待望の新刊を読むことができたのである。

実際、ビラルはこのような黙示録的な世界観に基づいた物語を好んで描いてきた。

邦訳されている「ニコポル3部作*2 とモンスター4部作 、彼の代表作と言ってさしつかえない、1980年以降の中心的な仕事であるこの2作はいずれもダークな作品だ。

ビラルのこうした言わばダークサイドが前面に出た作品が『外宇宙の手記*3。これはSF短編集なのだけど、BD界のSFの巨匠、メビウスの作品とはまったくテイストが異なる。黙示録的な雰囲気と世界の不条理さが本全体を支配している怪作である。

だが一方、ビラルにはポジティヴな未来を志向するようなところもある。

モンスター4部作など、第1巻の暴力性とはうらはらに全4巻の読後感はかなり爽やかなものだった(エンキ・ビラル本人が、第2巻以降は第1巻の暴力性を中和するために描いたと言っていたりする)。

そもそも、ビラルのこういう部分は初期の作品である『石の船*4 や『存在しなかった町*5にも感じられるものだ。

もちろんエンキ・ビラルのこういう生ぬるい部分を嫌う向きもあるかもしれないが(オレなんか断然『外宇宙の手記』が好き!)、それはとりあえず措くとしよう。

つまり、冒頭の設定からだけでも、エンキ・ビラルの新作、アニマルズが正しく「ビラル的な」作品なのだということが見てとれるというわけだ。

さて、それでは物語の続きをもうしばらく眺めてみよう。

他の多くの人々と同じく、エルドラドを探して「D-17」と呼ばれる海峡へ向かうレスター・アウトサイドは、自らの船を突如姿を現した1隻の船と衝突させてしまう。船の持ち主はフランク・ベイコンと名乗る青年だ。実はその船は元々アナ・ポザーノという女性のものだったのだが、フランクが彼女を殺し、奪い取ったのだ。

しばしの交流の後、フランクは故障したレスターの船を置き去りにし、「D-17」に向かう。一人残されたレスターを救ったのは、やはり「D-17」に向かいつつあったフェルディナン・オウルズという科学者と彼の家族だった。フェルディナンは世界を混乱に陥れた大災厄に先んじて、人間の動物とのハイブリッド化を提唱してきた人物である。

彼は自らや家族はもちろん何人かの人間にハイブリッド化を施していた。実は、フランクやアナこそがその実験体に他ならなかったのだ。

それぞれ「D-17」に向かう彼らは、世界と自らの運命に思いを馳せつつ、やがて再び邂逅することになる……

アメリカの西部開拓時代さながらに、宝を求めて人々が集まり、そこに様々な出会いが生まれるところにこの作品の魅力の一半がある。ラジオでたまたま彼のインタビューを聞く機会があったのだが、作者であるビラル自身もこの作品を「ウエスタン」と形容していた。

前作のモンスター4部作がテーマ的にも技術的にも非常に重い作品で、そこから一度離れるためにずっと軽い描き方をしているということだ。そういった点でもビラルのポジティヴな面がより前に出た作品である。

テーマ的には、一度崩壊した世界の再生の方策としての自然との共生という感じで、若干説教臭くももある。宮崎駿の『風の谷のナウシカ』などの方が深く感じられてしまうのは、ヴォリュームの問題上は仕方のないことか。

そもそもBDの場合、レオ(Leo)という作家の「アルデバランの世界」(Les Mondes d’Aldébaran)というシリーズを除くとあまり類書がなく、こういう問題提起が含まれていること自体が重要ということなのかもしれない。

創作に当たっては、デヴィッド・クローネンバーグの映画『イグジステンズ』やピンク・フロイドのアルバム『アニマルズ』にインスパイアされているとのこと。これらの作品が好きな人は要チェックだろう。

ちなみにタイトルの『アニマルズ』はフランス語では「Animal’z」と「z」が用いられているのだが、本来「s」を用いるべきところに「z」を用いることで、作品が語るハイブリッド化の問題を擬態して見せている。このような遊びは作中にいろいろとちりばめられていて、個人的にはエンキ・ビラルのこういう部分がすごく好きだ。

さて、次回はメビウスだ! ビラルの次にメビウスかよという声が聞こえてきそうだが、それも仕方がない。というのも既にご存知の方もいることだろうが、なんとメビウスが5月上旬に来日するのである!


*1 第1巻Le Sommeil du monstre『モンスターの眠り』、第2巻32 décembre『12月32日』、第3巻Rendez-vous à Paris『パリでの再会』、第4巻Quatre ?『四人?』1998年~2008年、第1巻のみ日本語版あり。貴田奈津子訳、河出書房新社刊
*2 第1巻『不死者のカーニヴァル』、第2巻『罠の女』、第3巻『冷たい赤道』いずれも貴田奈津子訳、河出書房新社刊、2000年~2001年[フランス語版は1980年~1992年]
*3 Mémoires d’outre-espace, Dargaud, 1983
*4 sc. Pierre Christin Le Vaisseau de pierre, Dargaud, 1976
*5 sc. Pierre Christin La Ville qui n’existait pas, Dargaud, 1977

text by 原正人

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