
Vincent Parronaud 「Monsieur Ferraille」
## 原正人の「なぜ私はヨーロッパマンガを愛するようになったか」
「こんな時代だからアクセスできるけど、気軽に手を出すにはちょっとよくわからん」というマンガを深追いする連載企画。フランスマンガ研究家の原正人氏が、いまだ知られざるヨーロッパマンガの魅力を隔週金曜日にどっぷりと紹介していく。
前回の記事でアルチュール・ド・パンスを紹介した流れで、今回も日本ではあまり知られていない若い世代の作家を紹介したい。
今回紹介するのはヴィンシュルス(Winshluss)という作家だ。1970年フランス生まれだから若手というと違和感があるかもしれない。ここ数年の活躍で、フランスでの知名度はかなり上がっていると思われる。
■何を隠そう、あのアニメ映画「ペルセポリス」の監督です
日本でこの作家の名前を知っているという人はかなりのBD通と言っていいのではないだろうか? あるいは、ヴィンシュルスの本名ヴァンサン・パロノー(Vincent Parronaud)なら聞いたことがあるという人がいるかもしれない。

何を隠そうヴィンシュルス=ヴァンサン・パロノーとは、マルジャン・サトラピ原作のバンド・デシネ『ペルセポリス』(バジリコ刊)のアニメ版をサトラピその人と共同監督した人物なのだ。
フランスでは1990年頃から、SFや冒険もの、ヒロイック・ファンタジーといった大手出版社の主流とは異なるテーマの作品を、若い作家たちが小出版社から出版しはじめ、それがバンド・デシネを内容的にも外形的にも変えていくことになる。
代表的な作家が上に挙げたサトラピや彼女の先輩に当たるダヴィッド・ベー、ルイス・トロンダイム、エマニュエル・ギベール、ジョアン・スファールだったりするのだが、その周辺に多くの作家たちがおり、ヴィンシュルスもそういった作家の一人だった。

ヴィンシュルスは仲間たちと語らってレ・ルカン・マルトー(Les Requins marteaux)というグループを形成し、その雑誌『フェライユ(※くず鉄の意)』(Ferraille)に『ムッシュー・フェライユ』(Monsieur Ferraille)という同名のロボットを主人公にした一連の作品を掲載する。
日本語に訳せば、「ミスターくず鉄」とか「くず鉄マン」ぐらいな感じだろうか。この作品は後にまとめられ一冊の本として出版されている(表紙は右、Monsieur Ferraille, Les Requins Marteaux, 2001)。
表紙をご覧いただけばわかるとおり、実にかわいらしいキャラクターが描かれているのだが、その内容ときたら、下品きわまりない。裏表紙もご覧いただこう。この表裏の絵が『ムッシュー・フェライユ』の特徴を見事に要約している。
もう少し詳しく紹介しておくと、内容的には、ムッシュー・フェライユが無垢な女性をかどわかしたり、恋に悩む弟分のボブに仕様もないアドヴァイスし、その結果惨事が起こるという話ばかりである。ヴィジュアルの参照項はアメリカの古いコミックスやアニメーションで、それらに対するからかいに満ちたパロディーが次々と展開される。
中でも傑作は、第二次世界大戦直前にさえないマンガを描いていたマンガ家ウォルトシュルスとゴンゾの数奇な運命を語るという一種のメタ作品。
『スーパー・ロボット』という作品で一躍有名になった彼らが、運命に操られるままヒトラーのドイツ、スターリンのソ連を経てロズウェルに辿りつくという実にバカバカしい話に仕上がっている。
巻末に収められたムッシュー・フェライユがボブと連れだって、アングレーム国際バンドデシネ・フェスティヴァルを訪れるという話も実にいい。

Vincent Parronaud 「Monsieur Ferraille」
冒頭でヴィンシュルスが『ペルセポリス』アニメ版の監督を務めているという話をしたが、彼はバンド・デシネの作家であると同時に、アニメーション作家でもある。ムッシュー・フェライユものの« O’ boy, What nice legs ! »という短いが実にいい味の作品があるのでご覧いただこう。
このアニメーションにも関わっているシーゾ(Cizo)という人物は、ヴィンシュルスの重要なパートナーで、多くの作品に共作者として名を連ねている。噂ではこのシーゾはまったく絵が描けないとのこと。
まったくの余談だが、彼はかつて日本のマンガ週刊誌『モーニング』にコラージュ的なマンガ作品を寄せたことがある。
次回はもう少しヴィンシュルスの話を続けたい。
text by 原正人
## 原正人の「なぜ私はヨーロッパマンガを愛するようになったか」
「こんな時代だからアクセスできるけど、気軽に手を出すにはちょっとよくわからん」というマンガを深追いする連載企画。フランスマンガ研究家の原正人氏が、いまだ知られざるヨーロッパマンガの魅力を隔週金曜日にどっぷりと紹介していく。
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