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今度はピノキオまで悪キャラに――アングレームを受賞したヴィンシュルスの傑作!

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Vincent Parronaud 「Monsieur Ferraille」

## 原正人の「なぜ私はヨーロッパマンガを愛するようになったか」
「こんな時代だからアクセスできるけど、気軽に手を出すにはちょっとよくわからん」というマンガを深追いする連載企画。フランスマンガ研究家の原正人氏が、いまだ知られざるヨーロッパマンガの魅力を隔週金曜日にどっぷりと紹介していく。

 前回はヴィンシュルスの代表作として主に『ムッシュー・フェライユ』を紹介した。ディズニー映画をはじめとするアメリカのかわいいマンガやアニメーションを参照しつつ、内容的にはあきらかにアンダーグラウンドな、下品でバカバカしく、時に嫌悪感を抱かせるような作品を描くというのがヴィンシュルスの特徴である。

 しかし、ヴィンシュルスの力量はそこにだけ留まるものではない。2001年刊の『デス・クラブへようこそ』(Welcome to the Death Club, 6 Pieds sous Terre)や『パット・ブーンのハッピー・エンド』(Pat Boon – Happy End, L’Association)は、同じような下品な話を語りつつも、そこにそこはかとない叙情が漂っているのである。なお、これらの作品はどちらも白黒で、ほとんどセリフなしで描かれている。

■親子と死の姿を描いた短編に注目「デス・クラブへようこそ」

 『デス・クラブへようこそ』は死をテーマにした短編集だ。とりわけ「父と息子」という死神の父子の話が最高!

 ある日、テレビで人間の子どもを救う天使の番組を見て、息子はそれに憧れを抱く。父が仕事で出かけている間に天使の輪や羽根を自作し、おまけに全身白塗りをして、鏡の前に立ち、悦に入っている。

 そこに父が帰ってきて、息子はこっぴどく叱られてしまう。いじけた彼は死神の父との決別を決意し、天使の使命を全うしようと人間界に向かうのだが、そこで彼を待っていたのは……というお話。

 家出する息子の姿に目をそらす父親の背中の哀愁が実にいい。

「Welcome to the Death Club」

 
 
■どうしようもない日々が美しい「パット・ブーンのハッピー・エンド」

 『パット・ブーンのハッピー・エンド』はさえない青年、ブーンの日常を描いた作品。

 女に振られ、バーでぼったくられ、近所の年寄りにいじめられ……とまったくいいことなしの彼の日常だが、絶望しきっていた彼に思いがけないハッピー・エンドが訪れるという話である。

 絶望の中に訪れる救いは最低のものなのだが、なぜかほろりとさせられてしまう。作中作のような形で、クリュック&クリュックスというKKKの二人組やパット・ブーンの数少ない友人でぶっちょスリム、パット・ブーンをいじめるおばあちゃんの逸話が語られたりしていて、これがまたかわいい。

 ヴィンシュルスのこのような側面はアニメーションの仕事にも表れている。「レイジング・ブル」ならぬ「レイジング・ブルース」(Raising Blues)という短編があるのだが、ヴィンシュルス一流の悪意のようなものはほの見えるものの、これは前回紹介したムッシュー・フェライユものとはかなり趣きを異にしている。

「Pat Boon – Happy End, L’Association」

 
 

■アングレームで受賞、アニメだけではなくマンガでも評価される作家に!

 さて、このような仕事を続けてきたヴィンシュルスが一躍脚光を浴びたのが、前回の冒頭で紹介したアニメーション作品『ペルセポリス』だった。日本では公開こそされたものの、そこまで注目を浴びなかったようだが、非常にすばらしい作品である。マルジャン・サトラピの原作を読んだ者にも十分楽しめる作りになっている。

 『ペルセポリス』はあくまでアニメーションの仕事だったが、昨年ついにヴィンシュルスはバンド・デシネにおいても広く知られることになった。2008年に出版された彼の最新作『ピノキオ』(Pinocchio, Les Requins marteaux)がアングレーム国際バンドデシネ・フェスティヴァルで、最優秀作品賞を受賞したのである。

 これはディズニーの『ピノキオ』を換骨奪胎した作品で、『ムッシュー・フェライユ』において見られたヴィンシュルスの悪意は健在である。ディズニー版では、ピノキオを人間らしく見せようという努力が払われているのだが、ヴィンシュルス版のピノキオはいつまでたっても何を考えているのかわからない不気味なロボットにすぎない。

 ピノキオの良心であるはずのこおろぎのジミニーは、ピノキオに寄生して飲んだくれ、芸術家気取りで非生産的な日常を送るたちの悪いゴキブリとして描かれる。色情狂の七人の小人まで現れ、ヴィンシュルス節全開である。

 実は、彼は『ムッシュー・フェライユ』の中で『ピノキオ』ネタに既に一度挑戦している。露悪趣味が少々鼻についたその作品を、彼は長い年月をかけて、悪意はそのままに見事なエンターテインメントに仕立てあげることに成功した。

 ヴィンシュルスの今後の活躍に要注目である。

 

「Pinocchio, Les Requins marteaux」

 text by 原正人

## 原正人の「なぜ私はヨーロッパマンガを愛するようになったか」
「こんな時代だからアクセスできるけど、気軽に手を出すにはちょっとよくわからん」というマンガを深追いする連載企画。フランスマンガ研究家の原正人氏が、いまだ知られざるヨーロッパマンガの魅力を隔週金曜日にどっぷりと紹介していく。
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