シネフィルぶれるほど映画を観ているわけではまったくないけど、二十世紀最高傑作を挙げろと言われたらクストリッツァ監督の「アンダーグラウンド」をおいて他にないと思っている。
自身の祖国である旧ユーゴスラビア(当時は現ユーゴ)が内戦の真最中に制作された同作は、マジカルリアリズム的な映像詩と、バルカンサウンドによる生命の讃歌に満ちみちていた。
愛するものが無慈悲に奪われていく哀しみ、それでも生きていく人間の強さと輝きとに打たれ、半島が裂けてゆくあのラストシーンで泣きに泣いた。映画で号泣したのはあれが初めてだ。
以来、座右の監督はただクストリッツァだ。本気で愛している。
さて。長くなったけど、そのクストリッツァ監督待望の最新作「ウェディング・ベルを鳴らせ!」がいよいよGWに渋谷シネマライズほか全国で上映されるので、ぜひ先行レビューで紹介したい。
キーワードは「恋人にキスしたくなるGW映画」。
渋谷ユーロスペースの女性監督特集「kiss!」とは無関係だ。
どういうことなのかは以下から。
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ツァーナは、機械工作が大好きな老人とセルビアに暮らす農村の少年だ。国家に学校や親を奪われ、家庭教師のボナを愛してしまう彼を案じ、老人は「嫁を見つけてこい」と都会に送り出す。
監督の息子でもある(!)ストリボル・クストリッツァ演じるスキンヘッドのロシアンマフィアに見初められ、少年やくざとして生活をはじめるツァーナはそこで少女・ヤスナと出逢う。その一方で彼を送り出した老人はボナと恋に落ちていき――。
ストーリーはざっとそんなハッピー・テイスト。
今までのクストリッツァ監督作品で言えば「黒猫・白猫」に近い。限りなくファニーなスラップスティックだ。だがそのユーモアは、劇中にもモチーフとしてたびたびあらわれるコソボ紛争やボスニア内戦といった悲しみを肌身に知る彼ならばこそのもの。
繰り返すようになるが、どうにもならない悲しみを、生命賛歌とマジカルリアリズムで、爆発的な笑いと感動に変えてしまうのがクストリッツァ一流の仕事なのだ。
さて、いい加減じらすのをやめてキスの話を。
今作の魅力の1つが、マリヤ・ペトロニイェヴィッチ演じるヒロインのヤスナだ。冒頭写真より、映画で観たほうがはるかに愛らしい。そんな彼女が、ツァーナに「人工呼吸を」とせがまれ、大きく息を吸ってキスをするシーンがある。
以降、ふたりは何度も何度もキスを重ねるのだが、そのたびに必ず大きくスーッと息を吸い込んでからキスをする。それが愛らしく生命感に満ちていて、見ていて本当に気持ちがいい。
知らない隣人にキスしたくなってしまったくらいだ(自重)。
ちなみにツァーナ役は「それでも生きる子どもたちへ」で主人公マルヤンを演じたウロシュ・ミロヴァノヴィッチ。切れるような愛くるしさは相変わらず、スキンヘッドと一緒にバーでワルぶるシーンがとにかく素晴らしい!
そんなわけで「ウェディング・ベルを鳴らせ!」は思わずキスしたくなる映画という触れ込みで宣伝した方がいい。
GW映画は他にもガス・ヴァン・サントの「ミルク」や「スラムドッグ$ミリオネア」、新潮クレストブックスのベストセラー『朗読者』原作の「愛を読むひと」など見たいものだらけだが、少なくともこれだけは見逃さずに。本当に。
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