石井哲さんの「工場萌え」、萩原雅紀さんの「ダム」、大山顕さんの「団地の見究」「ジャンクション」、そして佐藤淳一さんの「恋する水門」。
一定したジャンルとして名づけようがない、でも確実に共通のファンを獲得しているそれらの作家たち、作品たちを一冊にまとめたスサマジイ書籍「ドボク・サミット」が、武蔵野美術大学出版局から刊行されたのを知っているだろうか。
刊行を記念し、水門写真家の佐藤惇一さん、ランドスケープデザイナーの石川初さんのトークイベントがジュンク堂書店池袋店で開催された。一見まとまりのない「萌え」になぜ特定のファンが生まれるのか、石川さんはその理由を「物語」にあると語る。
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こちらが今回刊行された「ドボクサミット」。武蔵野美術大学で2008年6月に開催されたシンポジウムの「まとめ」を収録している。石井哲さん、大山顕さん、萩原雅紀さん、長谷川秀記さん、そして佐藤淳一さんという、いずれも奇妙な「萌え」で共通する5人だ。
中身は「ドボクとは何か?」を総体的に語るもの。その定義によれば「土木構築物のみならず、土木の特徴のひとつである機能性重視という性格を持つ建築物まで含めた領域を示すため、無理やり定義された表現法」。民芸的世界観である。
トークイベント会場の前にはそれぞれの作品がずらりと並ぶ。やはりこれだけ並ぶと壮観で、「書籍萌え」というのも候補に挙げたくなる。とはいえ特殊製本マニアはまた別のところにいるのだが。
今回の書籍刊行を記念して、オリジナルTシャツまで作ってしまったらしい。カタカナの「ド」の中に様々な萌え要素が入っているというかわいい1枚。
こちらは鉄塔をモチーフにしたトートバッグ。本気で萌える。
トークイベントは「ドボク・エンタテインメントと新景観」と題された。景観、サイトビューを新たな価値観から眺めなおそうという試みだ。
左がランドスケープ・デザイナーの石川初さん、右が水門写真家の佐藤淳一さん。石川さんがトークを担当して、佐藤さんがそこに突っ込んでいく形で話は進んだ。
「まずGoogleでドボクサミットを検索してみるところから話を」と石川さん。「ドボクサ、まで入れると“土木作業員 犯罪”なんかが引っかかってきますね」。危ない。実際、9万件も該当している。
石川さんは「団地萌え」をキーワードに語り、その写真から意図的に「削ぎ落とされているもの」について触れた。それは「こじゃれた意匠」であったり、下からあおった視線の撮影、あるいはフトンが干されたベランダやさわやかさを狙った色彩といったもの。
それがまとまっているものがあるという。何かというと、不動産広告なのだ。
不動産広告は「住む側に物語を売るもの」と石川さんは語る。マンションの広告は、そこに住むことで獲得されるライフスタイルのイメージを喚起する物語によって作られている。
「団地萌え」は、その広告機能をはぎとったところにあらわれるもの。いわば「物語の零度」としての価値を愛でる都市のフェティシズムなのだ。
工場やダムもそれと同様に「都市的なもの」からその機能を剥ぎ取り、観察の対象物としてのみ眺めたもの。それを観察することで、物語のない都市というどこにもないユートピア的な空間を楽しむのがドボクという「萌え」なのだ。
その意味で工場やダム、団地に共通する「ドボク」とは、都市を支える逆説的なリアリティと言えるだろう。「蛇口をひねれば水が出る」式に、なんか構造は分からないがそこにある都市的なもの。その複製芸術的な価値が、ファンを生む原点になっている。
石川さんはひとしきり講義を終えたあと、次の萌えとして「アスファルトにハマっている」と語っていた。これを機会に、自分なりの「萌え」を探すのもいいのではないかと思ってしまった。うーん、何かあるかなあ。
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